ウンスはミョンヒの部屋の前に立っていた。
手を前に出すが戸を叩くのを躊躇うウンス。
本当に此れでいいの?ウンス‥
でも私の決意は変わらない。元々此処の時代の人間ではない。去るべきは私の方だ。ヨンの為に‥そしてこれから未来へと続く歴史の中に私が居ていい筈はない。
ウンスは意を決して部屋の扉を叩く。
「ミョンヒさん、いますか?」
えっ!ウンス様っ!?
願ってもない突然のウンスの訪問に驚きながらも少々緩む顔を隠しながら中に通すミョンヒ。
で、でも‥あの近衛隊はっ!?
ミョンヒは辺りをキョロキョロ見回す。
「どうかしたの?」
「いえ、ウンス様お一人ですか?」
「そうだけど‥いけなかった?」
「いいえ!いけないなどと‥とんでもございません。どうぞ、中へお入りください。」
昨日結局テマンの所為で会えず諦めかけていた。それなのに自らおいで下さった。何て幸運なの‥ミョンヒは微かに笑みを浮かべる。
「ミョンヒさん。私に話があるのよね。何だったの?」
「いえ。それより何用ですか?ウンス様からお越しになるとはお珍しいですね。」
一体何なの?何の話?ドキドキ‥
するとウンスは一息吐き、
「私急ぐから単刀直入に言うわね。ミョンヒさんにお願いと‥お別れを言いに来たの。」
お願いと‥お別れ?どういう意味。
私に出て行けという事なのかしら‥
二人の間に流れる沈黙の時間。
ミョンヒを見つめるウンスの真剣な眼差し。
ただ無言でウンスの言葉を待つミョンヒ。
するとウンスが静かに口を開く。
「ミョンヒさんはどんな事があってもヨンを守り抜くと誓える?いつもヨンの傍にいて、いつもヨンを支えられる?」
「はい。勿論そのつもりですが‥」
「例え皆んながヨンに背を向けてもあなただけはヨンの味方でいられる?」
「勿論です。ヨンにこの身を捧げます。」
ウンス様は何を仰っているの?
まさか‥私にヨンを譲ると?
するとウンスは笑顔になって、
「そう。わかったわ。それ聞いて安心した。それじゃあ‥」
ウンスはそっとミョンヒの手を握る。
「ミョンヒさん、ヨンの事頼むわね。必ずヨンを幸せにして。今まで色々ごめんなさい。私謝りたくて。それだけ言いに来たの。それじゃあもう行くわね。」
ヨンを頼む?行くって何処に?
「ウンス様っ!」
立ち去ろうとしたウンスはミョンヒの声に振り返る。
「どうなされたのです。仰ってる意味が‥」
「いいのよ。その内わかるわ。それにチェギチャギ楽しかったわね。ヨンの事がなければいい友達になれたのだけど‥残念ね。」
そう、これでいい。すぐ私忘れてしまうけどヨンは高麗の英雄だった。私なんかが妻になっていい訳がない。ミョンヒさんなら家柄も品格も申し分ないし、何よりあのイ・ソンゲのお姉さん。これでヨンの将来は安泰ね。何で今まで気づかなかったのだろう。ヨンへの愛が足りなかったのかしら‥
ウンスはミョンヒの部屋を出て行った。
呆然と見送るミョンヒ。
一体どうなってるの?全く意味がわからない
今私にヨンを譲ってくれた‥のよね。
そう言えば私の素性話し忘れた。されど最早その必要はない。でも何故‥
ミョンヒは拭い切れない疑念を捨て気持ちを持ち直す。
そんな事はどうでもいいのよ。後で後悔しても知らないから。ではヨンは遠慮なくこの私が頂きますね。ヨンは私に任せて安心して此処を去って。
しかし思惑通りに事が運んだもののやはり予想外のウンスの行動に戸惑いを隠せないミョンヒだった。
心配そうに部屋の外で待っていたテマン。
しまった。目を離した隙にお二人に‥
ウンスはそんなテマンに微笑むと、
「お待たせ。準備出来たわ。さあ行きましょう。」
「ミョンヒ殿と何を話したのです。」
「別に大した事話してないわ。ヨンには内緒よ。」
「わ、わかりました‥」
「じゃあ早く行きましょ。」
二人は皇宮を出て行った。ウンスは立ち止まり振り返ると門を見つめる。
皆んな今までありがとう。さようなら‥
ウンスとテマンは屋敷の門の前まで来た。
「此処でいいわ。ありがとう。」
「ではまた後程迎えに来ます。」
「わかったわ。お願いね。」
ウンスはテマンに笑顔を見せた。何も気付かぬテマンは礼をして皇宮に戻って行った。
ウンスはテマンの走り去る後ろ姿を見送りながら思いを巡らせる。
テマン君今までありがとう。テマン君にも沢山迷惑掛けたわね。これからもヨンの事頼むわね。
次は門の方を見つめ、
ハラさんもありがとう‥ハラさんのご飯もっと食べたかった。娘の様だと言ってくれた。私もお母さんに会えたみたいで本当に嬉しかった。一緒に暮らしたかったわ‥
ウンスの瞳には涙が浮かぶ。今日は泣いてばかりね。こっちに来てから涙腺緩んでばかりだわ。本当私らしくない。笑みを浮かべると中には入らずその場を後にするウンス。
そのまま町の中に姿を消した。