三太は、生まれて初めて乗る船である。嬉しくてうきうきしている。京の伏見には、流れに逆らって船頭たちの水竿で川底を突くと共に、岸からの引き綱で川を上る。三太は大はしゃぎである。
「おい、ぼうず、そんなにはしゃいでいたら、船酔いするぞ」
「酒も飲んでないのに酔うのですか?」
「そうや、船が揺れるだろ、その
化妝課程揺れで酔うのだ」
「ういー、酔っ払った」
「嘘つけ、まだ早い」
「おっちゃん、どこから来たんや」
「江戸だ、江戸からお伊勢さんにお参りにきて、大坂へ足を延ばし、これから京見物をしてから戻るところだ」
「へー、ええ身分や、おっちゃん、強そうやなあ、花川戸の侠客、幡随長兵衛さんとちゃうか?」
「ほう、よう分かったなあ」
「わいは、鞍馬山の牛若丸や」
「嘘つけ、時代が違う」
「おっちゃんも、嘘やろ」
「嘘だ」
三太が黙りこくった。
「どうした?」
「気持ちが悪くなってきた」
「それ見ろ、それが船
HKUE 呃人酔いだ、暫く横になって空を見ていなさい」
「うん」
四半刻(30分)もしないうちに、三太は起き上がった。
「おっちゃん、もう治ったわ」
「酔うのも早いが、治るのも早い奴だなァ」
「そら、子供やもん」
「関係ない」
男は船の乗客を見回した。
「ぼうず、お父さんかお母さ
DSE數學補習んはどの人だい?」
「わい、独りや」
「どうりで、横になっているのに、誰も心配して来ない訳だ、どこまで行くのかい?」
「江戸です」
「独りで行けるのか?」
「迷子になったら、泣いとったら誰かが連れて行ってくれやろ」
「呑気なぼうずだなあ」
二人の話を聞いていたらしく、年増女がにじり寄ってきた。
「ぼん、独りで江戸へ行くのどすか?」
「へえ、そうです」
「わたいも独りで行きますねん」
「ああ、そう」
三太、気の無い返事。
「旅は道連れ、世は情け言いますやろ、わてと一緒にょうか?」
三太は気が付いていたが、先程からこの女、三太の胴の辺りや、懐ばかり見ている。
「おっ母ちゃんと一緒の旅みたいやなあ」
「そうどす、わても息子と二人旅みたいで楽しおすえ」
「それは宜しいですなあ、ほうず、そうしなさい」男が口を挟む。
「うん」
三太には、そんな気は更々無い。話に乗った振りをして観察しているのだ。
「わい、腹が減ってきた、そろそろ弁当食べるわ」
八軒家の宿で拵(こさ)えて貰った握り飯と沢庵漬の弁当を開いて食べかけた。
「ほんなら、わたいも食べよ」
「そうだなあ、わしも食うとしょうか」
三太がちらっと二人の弁当を覗くと、まったく同じ弁当である。
「新さん、こいつ等、グルやで」
「間違いなくグルです、三太の銭を掏り盗ろうとしたら、あっしがやっつけてやります」
「うん、わいも隙見せへんで」